M.Sさん |
大学卒業後21年間、コンピューターのソフトウェアエンジニアとして働きました。最初11年間のEコマース・ウェブアプリ開発を専門とし、残り10年間は主にソフトウェアシステム開発・ソフトウェアシステムテストを手掛けました。ですので、コンピューターサイエンス、システム開発、ウェブ開発、オペレーティングシステム構造学(Windows、Unix/Linux、MVIS)など、コンピューター・IT関連が専門分野です。また、大学在学中は英文学を専攻していましたので、今後は文学系の翻訳にも挑戦していきたいと考えています。
ソフトウェア開発の仕事を20年以上続けましたが、退職したあと、フリーランスで翻訳をすることに決めました。自身も一時研究者を志し論文を執筆した経験があったので、その時のことが論文翻訳に生かせると考えました。それ以上に、研究の道をあきらめて企業に就職した私には、学術界で努力し続ける研究者を応援したいという気持ちが強くあったのです。現在翻訳者として働くようになり、学術振興の一端を担っていることにとてもやりがいを感じています。それ以外にも日本とアメリカにそれぞれ20年以上住んだこと、ITの実際の知識が両言語でともに深いこと、もともと書くことが好きであること、ある程度時間の自由がきくことから、翻訳者の道に進むのは自然な選択だったと思います。
毎日欠かさず数時間、インターネットで英語の記事を読み、新しい傾向や開発についての情報を得ています。また、翻訳プロジェクトに関わるごとに、その翻訳に関連する分野の研究を自分なりに行い、知識や考察を深めています。そのほか、生活基盤がアメリカにあり、配偶者がアメリカ人という、英語に恵まれている環境に身を置いているのが大きいですね。
物理の教科書を翻訳したことです。自身の専門分野であるコンピューター・IT関連とは異なる分野の翻訳だったので、専門用語なども触れたことのないものばかりで最初は戸惑いました。ですが、自分なりに物理に対する研究や勉強を行いながら翻訳していくうちに理解がどんどん深まり、学校でちょっとした物理の講義をできるくらいにまで詳しくなることができました。新たな知識を得られたという意味でもとても新鮮で貴重な体験でしたが、自分から学ぼうという積極的な意識を持ってさえいれば、どんな価値観や考え方も自分のものにできるということを知ることができ、目が覚める思いでした。翻訳の仕事というのは色々なことを自分に教えてくれる、魅力的な仕事だということを改めて感じた出来事でした。
翻訳という仕事の難しいところは、文法が正しいかどうかのチェックや、文章の体裁を整えることに意識が向きがちになり、結論としては何が言いたいのか?一番伝えたかったことは何なのか?ということが、文章全体を見たときに時として弱くなってしまう点です。特にコンピューター関連文書の翻訳では、カタカナ用語が多いためカタカナの乱用を避けることに注力してしまい、その傾向が強いと感じます。
体裁が整っているだけでなく、読者を納得させられるような説得力のある中身が備わった文章を完成させて初めて、翻訳者としての職務を全うしたといえるのだ、と常に考えて翻訳をしています。そのことを認めてくれる人がいるからこそ、これまで翻訳者としてキャリアを積んでこられたと思いますし、これからも多くの人にそのことを実感してもらえるよう精進していきたいです。