W.Yさん |
日本で社会福祉学を専攻し、その後、オーストラリアで修士号を取り、博士課程に進みました。修士課程では、アジア研究、政治学を専攻し、博士課程では公共政策について研究をしていました。その後、アメリカ、オーストラリアで法律関係の勉強もしているので、社会福祉、社会学、公共政策、政治、法律などの社会科学系を幅広く担当できると自負しています。また、最近では高齢化の影響で注目されている老人福祉、介護、ソーシャルワーク系の依頼も多く受けています。それ以外に、翻訳業のかたわら法律関連の仕事もしているため、今後は法学分野も積極的に携わっていきたいと考えています。
日本の小学校、中学校を卒業した後、インターナショナルスクールで高等教育を終えました。そして日本の大学を卒業後、オーストラリアとアメリカの大学院に通う機会に恵まれました。そのため、一般的な帰国子女は日本語と英語のどちらかが得意な場合が多いのに比べて、私の場合は日本と英語圏を行ったり来たりしていたので、どちらもビジネスレベルで使用可能です。そのようなバックグランドがあるため、培ってきた語学力を生かせる仕事をしたいと考えるようになったのは、ごく自然なことです。
翻訳の世界に入った直接のきっかけは、法律関係の勉強をしていた頃、定年退職をされる知り合いの翻訳者から辞書や概説書を譲っていただいたことです。いただいた資料を使って翻訳の勉強を始め、その楽しさに夢中になったことが、この仕事を始めた一番の理由です。そして翻訳の勉強を進めるうちに学術翻訳の分野に強い興味を持ち始め、よりスキルを深めていきたいと考えるようになりました。
まず、時事問題の内容や表現を身につけられるよう、常にニュースを見たり聞いたりするようにしています。とくに社会科学系の翻訳では、内容を正確に理解し、それをネイティブから見て違和感のない文章で表現することが要求されます。ですので、iPhoneアプリやポッドキャスト、新聞、ニュース雑誌等で常に時事問題の知識を取り入れ、今何が起きているのか把握するようにし、どのような表現でそれが伝えられているのか、ということに慣れるようにしています。
他にも、アウトプット力を高めるため、質の良い文章を書く研究者の方の本を手元に置き、滑らかで格の高い学術表現を身につけるよう努力もしています。翻訳の面では、主語、述語の関係が日本語と英語とは逆なので、特許翻訳の手法を取り入れ、主語と述語が離れすぎないように試みたりもします。この手法は、長い文章に使うと目を見張るほどの違いが出ますね。
ある社会学の論文を英訳した時のことです。その論文は、質問表を使った調査の結果をもとに執筆されたものだったのですが、研究者の方がとても流暢な文章を書かれていて、内容が直接頭に入ってくるようでした。本当に良い学術論文は、文章が空気のような役割を果たすものなのだ、と感動したのを今でも鮮明に思い出せます。良い文章を書かれる方は、研究を心から楽しんでおられるのでしょうね。このような原稿は、翻訳していても本当に楽しいですし、読者が感銘を受ける様子も想像できるような気がします。
依頼者の代弁者として、依頼者が伝えたいことのすべてをネイティブに伝えられる翻訳者でありたいと考えています。翻訳をされた依頼者の方は、自分の母国語では自由に表現できることが外国語では難しい、という理由で翻訳を依頼されることが多いと思うのです。そのような意味で、翻訳者は、依頼者の伝えたい内容や個性的表現を代弁する役割を担っているのではないでしょうか。ネイティブからみて違和感のないものに原稿を仕上げるようにしようとすると、いろいろな問題がでてきます。でも、そのような苦労を乗り越えて、依頼者が学術雑誌の編集者もしくは学会の参加者等から良い評価を受けられることを第一に考え、努力し続けることに、何よりもやりがいと醍醐味を感じます。