13人の執筆者、異なる専門分野を横断する学術書籍翻訳を、
各分野に精通した翻訳チームの柔軟な対応で満足度の高い仕上がりに
日英翻訳をご依頼された書籍は、森林学、社会学、人類学など異なる研究分野を横断、全国各地の大学教授や研究者たち総勢13名が各章を執筆した壮大な一冊。各分野の中でも、執筆された方によって森林環境学や文化人類学など研究領域はさらに細分化しており、いただいた原稿には各章ごとに異なる対訳リストが用意されていました。各分野の専門領域に精通し、執筆者の意図を忠実に反映するのはもちろんのこと、分野や執筆者によって異なる表現を統一し、一冊の書籍としての読みやすさを保持した高品質な翻訳。それが、翻訳ユレイタスに求められた課題でした。また、翻訳を始めるにあたり、書籍の編集者である井上真先生、田中求先生、そして版元である東京大学出版会を悩ませたのは翻訳形式。原文への忠実性を重視する「逐語訳」か、読みやすさを重視した「意訳」か。翻訳ユレイタスは、翻訳方針の決定段階からお客様との綿密な連携が必要だと考えました。
井上先生と田中先生、そして東京大学出版会は、森林学、社会学、人類学の3分野に深い造詣を持つ日本人の翻訳者を希望されていました。翻訳ユレイタスでは、修士・博士号を持つ平均年齢10年以上の経験豊富な翻訳者約500人の中から、書籍の中核分野となる森林学に精通し、20年以上の翻訳経験を持つ日本人翻訳者を採用。また、社会学に精通したクロスチェッカーと人類学に精通したネイティブチェッカーの3人体制で、各分野の専門性を担保することができました。専門分野を1,117もの科目に細分化して管理しているからこそ、本案件のように異なる研究領域を横断する場合でも専門性に即した翻訳が可能なのです。
翻訳ユレイタスでは、基本的に文章としての流暢さや読みやすさを重視した「意訳」をお勧めしています。本案件では、井上先生と田中先生、そして東京大学出版会が「意訳」か「逐語訳」で迷われていたので、まずは「翻訳トライアル」をお試しいただくことに。書籍の一部分を「意訳」と「逐語訳」の2パターンにてご用意し、各原稿を13名の執筆者にご確認いただきました。その結果、当初は「逐語訳」にて作業を開始することに。しかし、一文が長い傾向にある社会学などの分野では「逐語訳」だと読みにくくなってしまうなど、執筆者にとって修正・チェック作業が負担になってしまうことが判明。途中で「意訳」に切り替えたところ、「意図は変わらず読みやすくなっている」と各執筆者から高い評価をいただく仕上がりになりました。
論文翻訳は人の手で行う以上、お客様によってご要望が異なるのは当然のこと。特に本案件のように13人もの執筆者が関わる場合、「いかに各人の要望に応えつつ、効率的に作業を進めるか」が進行管理の要となります。本案件では、世界中に散らばる翻訳者チームが意見を交わせる「ほんやくの場」を活用し、翻訳者、クロスチェッカー、ネイティブチェッカー間でのシームレスなコミュニケーションを実現。また、作業過程で翻訳の方向性を確認するため、クロスチェックが完了した段階(レベル2)で、各執筆者に原稿をお戻ししフィードバックをいただく工程を追加。その際に、英訳チェック時の修正方法や返信期限などの共通ガイドラインを策定し、執筆者全員に原稿と共にお渡ししました。全執筆者のご協力のもと、統一基準に則ったフィードバックにより作業効率は飛躍的に向上。その後ネイティブチェッカーが原稿をブラッシュアップすることで、執筆者の意図を忠実に反映しつつ、表現力豊かな原稿が完成しました。
「翻訳チームの方々だけではなく、営業担当の方やカスタマーサービスの方など大勢の方に支えられました。」
今回、翻訳ユレイタスをご利用いただいた、東京大学教授 井上真先生、九州大学准教授 田中求先生に翻訳サービスのご感想をいただきました。
東京大学 井上真教授 1983年東京大学農学部卒業後、農林水産省森林総合研究所研究員。1987年からは国際協力事業団の長期派遣専門家としてインドネシア共和国東カリマンタン州に3年間滞在。その後は東京大学農学部助手、同助教授、大学院農学生命科学研究科助教授を経て現職。
九州大学 田中求准教授 2004年東京大学大学院農学生命科学研究科・森林科学専攻博士課程修了。同大学院農学国際専攻の学術研究支援員、特任教員を経て2010年以降は農学国際専攻国際森林環境学研究室助教。2014年から現職。
現在、ほぼすべての翻訳工程を終えたわけですが、この足かけ1年続いたプロジェクトを振り返り、ご感想を聞かせていただきたいと思います。まずは、率直にお伺いしたいのですが、弊社の翻訳のクオリティにはご満足いただけましたか?
私は翻訳サービスを使うのは初めてでした。翻訳をしていただいたあと、私のほうで訳文を大幅に修正しなければならないかと思っていたのですが、思ったよりも修正箇所が少なかったので助かりました。翻訳者の方が元の日本語の意図をうまくくみ取ってくださっていると感じました。日本語としても読みづらくわかりにくい部分を、見事に意訳していただきました。
今回の書籍は10以上もの章からなるうえ、しかも章ごとに執筆者が異なり、森林環境学であったり文化人類学であったり、複数の領域を横断するものでした。ひとりの翻訳者の方にご対応いただくのはかなり難しい翻訳だったと思います。しかし、ユレイタスさんには、幅広い分野にきちんと対応していただいたと思います。
また、翻訳した原稿をいったん著者に戻し、著者による修正を加えたあと、ユレイタスの英語ネイティブチェッカーがブラッシュアップするという工程でしたが、ネイティブチェッカーが実に丁寧にたくさん添削してくださっているのにはビックリしました。手抜きがないという感じがしました。
弊社のサービスで何か足りないと感じるはありましたか? 今後のサービスの改善に生かしていきたいと思います。
日本人が書くとまわりくどくなるところを、英語ネイティブの翻訳者の方がスッキリした文章にしてくださるのはいいのですが、この言い回しではこちらの言いたいニュアンスが伝わらないと感じる部分もありました。しかしそれは、著者が責任をもって調整しなければならない部分だと思いますし、翻訳者にそこまで求めるのは筋が違うかなとも思います。
長期にわたるプロジェクトで、翻訳チームの方々だけではなく、ユレイタスの営業担当の方やカスタマーサービスの方など大勢の方に支えられました。後半、プロジェクト管理が立て込んでくると最終納期がずれることがあり、密なやりとりが必要と感じた時もありましたが、おおむね円滑なレスポンスをしていただき、細かい気配りをしていただきました。
今回の翻訳プロジェクトから学んだことで、次回翻訳を依頼する際に生かせる経験はありましたか?
欧米ではパラグラフの冒頭にTopic Sentenceが来て、そのあとでそれを補強する説明が続きます。ところが日本人の文章は真逆です。最初に説明があって、最後に結論が来る。だから、和書を単純に翻訳すれば洋書になるかというとそういうわけではないと思うのですが、ユレイタスさんはどう思いますか?
最初、ユレイタスさんとはまず「翻訳の方針」を決めるところからスタートしました。翻訳者による解釈ミスを防ぎ、できるだけ原文に忠実な翻訳を実現するためにも「直訳」という翻訳のスタイルを選び、進めました。しかし途中で、直訳では修正にかかる著者の労力が大きくなることに気づき、「意訳」に切り替えました。結果的には意訳に切り替えてよかったですが、翻訳方針を確定するまでには、慎重で丁寧なコーディネーションが必要なのだと感じました。
たしかに日本と欧米のプレゼンテーションの仕方は異なります。英語ネイティブチェッカーはやはり、日本人の書く英文は言いたいことがなかなか見えず、だらだら書いてあると感じるようです。ただ、弊社は日本人研究者からこれまでに何万稿もの英語論文をお預かりしているので、その特徴には慣れています。英文から日本人的なニュアンスを一切排除し、文章を換骨奪胎して、冒頭に結論を持ってくるような大手術もできますし、それを弊社では「アドバンス英文校正」というハイエンドなサービスとして提供しています。ただ、今回の翻訳プロジェクトに関しては、限られた予算と限られた時間の中で対応する必要があったため、そこまでの手術は行っておりません。
ドラフトの翻訳は終了しましたが、ユレイタスさんにはまだ、英訳書のタイトルをご教示いただいたり、ゲラ校正でお手伝いしていただいたりと、製本印刷に至るまでぜひご協力いただければと思っています。どうぞ引き続き宜しくお願いします。
こちらこそ貴重なプロジェクトに深く参画させていただき光栄です。引き続きどうぞよろしくお願いします。
2015年3月下旬に、東京大学出版会様から「Collaborative Governance of Forests Towards Sustainable Forest Resource Utilization
」が出版されました。
書籍の詳細は東京大学出版会様のホームページよりご覧いただけます。
弊社営業担当者のコメント本案件の成功の鍵は、お客様の多大なるご協力にあります。打ち合わせ時に、お客様の予算内で最大限のパフォーマンスを発揮できるようご提案させていただく一方、プロジェクトの円滑な進行のためにご協力をお願いする点はハッキリと明確化しました。私たちの提案を井上先生、田中先生、東京大学出版会は快諾してくださり、また執筆者の皆様からも深いご理解をいただき、ご多忙のなか快く協力してくださりました。お客様との二人三脚により作業を進められたことが、素晴らしい書籍への誕生へと繋がりました。