「FUKUSHIMA」を海外へ、後世へ伝えるために―。
英訳から組版までサポートし、東日本大震災の活動記録集を全世界に発信
翻訳ユレイタスがそのご依頼をいただいたのは、東日本大震災から1年半が経とうとしていた2012年の秋。福島県の株式会社民報印刷様からいただいたご要望は、「『FUKUSHIMA いのちの最前線 東日本大震災の活動記録集』の英語版を制作し、全世界に「FUKUSHIMA」の現状を伝えたい」というものでした。同書は、地域医療の中核として大震災・原発事故直後から被災者治療と放射能への対応に取り組む福島県立医科大学の活動を1年にわたり追った記録集。「事実を、そのままに。純粋に“記録”を」という菊池臣一理事長兼学長の考えのもと、教授・職員・学生たちによる論文・手記・インタビュー・写真などで構成された貴重な資料なのです。メディアから研究者、一般人まで世界中が注目している中、海外そして後世に「FUKUSHIMA」の現状を伝えるという歴史的使命を持つ書籍の日英翻訳。この重大な役割に対し、翻訳ユレイタスはまずお客様と心を一つにすることが最優先と考え、日本のプロジェクトマネージャーが福島県の民報印刷様に直接伺い詳細なヒアリングを行いました。本案件の課題は、約300ページという膨大な記録を正確にいち早く、後世に読み継がれる文章として仕上げること。また、お客様は初めての英語版書籍の制作に対して不安を抱いており、翻訳ユレイタスがこれまでに蓄積してきた知識やノウハウが必要とされていました。
書籍は医療現場の記録を中核としながら、地震や放射能、災害時の危機管理に関する論文や報告など災害に関する幅広い内容を網羅していました。翻訳ユレイタスでは、医療・原発・危機管理分野の専門家である翻訳者を中心にプロジェクトチームを編成。チーム内の共通認識を高めるため、プロジェクトマネージャーがお客様のご要望と書籍にかける想いを直接翻訳者たちに伝えました。震災直後から被災者でありながら診療と支援に携わり、かつ記録を続けてきた福島県立医科大学の皆様の計り知れない労力と想い。そして、その想いを本というカタチにし、世界に発信すべく奔走する民報印刷様の情熱。翻訳ユレイタスは受け渡された想いのバトンを「高品質の翻訳」という成果で繋ぎ、全世界に「FUKUSHIMA」の現状を伝える最後の走者となる。その役割の重要性を共有したことで、チーム一丸となって品質向上を追求する体制が築き上がりました。
手記では、教授、職員、学生などあらゆる立場の方々から震災当日とその後の様子が克明に語られていました。地震が起きている時の建物の様子から、院内の被害状況、ライフラインの状態。そして震災直後から救急患者が押し寄せ戦場と化した医療現場の生の声。被害状況の報告やニュースだけではわからない、これらの貴重な情報を全世界に発信するには、間違いや誤解を与えない正確な翻訳が必要でした。翻訳ユレイタスは、翻訳者とクロスチェッカー、ネイティブチェッカーの各段階で数字や名称はもちろんのこと、文章としての整合性を厳しくチェック。その後、プロジェクトマネージャーが約300ページすべてを厳重に校正、ゲラのチェックも行い完成度の高い原稿に仕上げました。
民報印刷様は英語版書籍の制作が初めてということで、翻訳会社探しからお困りのようでした。多くの翻訳会社の中から翻訳ユレイタスを選んでいただいたお客様に対し、ご期待以上の成果を出すこと。それが翻訳ユレイタスのできるご恩返しです。本案件では、ただ翻訳のみを請け負うのではなく、民報印刷様の立場に寄り添い進行管理や組版においてもアドバイスさせていただきました。翻訳原稿受け渡し後の効率的なフローの構築や、翻訳終了後も英語ユーザーが読みやすいフォントやデザインの提案など、これまで翻訳ユレイタスが積み重ねてきた知識やノウハウを生かしたサポート体制により、スムーズな制作が可能に。校了後、民報印刷様からは「とても頼りになった」と高い評価をいただきました。完成した英語版「Fukushima: Lives on the Line」は電子ブックとして全世界に福島県立医科大学の活動を発信、今なお貴重な資料として多くの方に読まれています。
お客様のコメント 株式会社民報印刷様この度、一緒に仕事を進めさせていただく中でとても安心感がありました。今回、私たちがこれまでに経験したことのない翻訳が必要な業務でした。確かなお仕事をしてくださる所をネットで検索していたところ、翻訳ユレイタスにたどり着いたのです。ホームページには内容がわかりやすく表示されており、料金的にもしっかりしていると思いました。初めての英語版書籍制作という緊張の日々の中で、様々な面でサポートしていただき、心からお礼申し上げます。また、短い期間の中で契約以上のチェックをしていただき、福島県立医科大学様も大いに満足しています。快く引き受けてくださったスタッフの皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。
「頭とハートを使わないと、良質な翻訳原稿はできません。翻訳という側面から、歴史的に重要な役割を持つ書籍に貢献できたことは私たちの誇りです。」
本案件では、翻訳開始前に福島県の民報印刷様に伺われたそうですが。
お客様からご依頼のお電話があった際に、これは必ず私たちがお役に立たねばならない案件だと感じました。初めて英語書籍を制作されるという面で不安も抱えていらっしゃるようでしたし、まずは直接お話をお伺いし、弊社についてもしっかりと理解していただくべきだと。やはり対面でお話することで、お客様の書籍に対する想い入れや詳細なご要望を把握することができ、チーム内で共有することができました。
チーム内での意識共有は原稿にどのような影響をもたらしましたか。
翻訳はただ言葉を変換するだけの作業ではありません。著者の意図を忠実に反映し、かつ読み手にすっと入っていく文章に仕上げる。これは翻訳者やネイティブチェッカーの知識やスキル、経験はもちろんのこと、やはりハートの部分が重要なのです。本案件では、作業開始前に「FUKUSHIMA」の現状・そして未来に向けた取り組みを全世界に伝えることの重み、意義、そして覚悟をチーム内で共有しました。一人ひとりが頭とハートを使って各々の仕事にあたることが、良質な翻訳原稿に繋がるのです。本案件では始めに意識共有を徹底したことで各人が最大限の力を発揮し、高い成果を得ることができました。
英語版書籍が完成した感想を教えてください。
日本そして世界にとって重要な意義を持つ書籍に「翻訳」という側面から貢献できたことを誇りに思います。海外の研究者は災害医療や緊急被ばく医療、放射能がもたらす健康被害に対して非常に高い関心を持っており、福島県立医科大学の皆様による本書は多くの学びを与えるでしょう。また、東日本大震災から私たちが学んだことは、世界が抱える課題解決に繋がる多くの示唆を含んでいます。その情報発信に微力ながらも携わることができた経験は、翻訳ユレイタスにとってかけがえのないものとなりました。現在、福島県立医科大学様、民報印刷様からは論文翻訳や書籍翻訳のご依頼を多数いただいており、良好な関係が続いております。今後も皆様のお役に立てるよう、お客様のご要望以上の成果を追求し続けます。