古き良き研究者のホームページは今。
オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。時代遅れになったかに思われた昔ながらの素朴な研究者のホームページは今も有用なのか、ホームページを運営している英米豪の研究者の声も参考に、インガー准教授が語ります。
インターネット上で研究者としての自分をどう紹介すべきか、という問題は、なかなかやっかいです。自分について知ってもらう場は他にもあるため、インターネットのページをどうするかを決めるのは難しいかもしれません。ブレアからの質問のメッセージを受け取って以来、私はこのことについて考えてきました。
博士課程も最後の半年となり、私は現在、学術系の仕事を探し始めています。そこで気づいたのは、博士課程修了間近の学生の多くが、自分の研究や経験を紹介するウェブサイトを持っているということです。自己紹介サイトの作成について、これまでに記事を書かれたことはありますでしょうか?また、作成にあたって最も効果的な方法や、記載しておくべき情報などがありましたらご教示いただけますでしょうか。
良い質問ですね。私はソーシャルメディアとブログの需要への対応に力を注いできたため、古き良き「研究者ページ」は無視してきました。自分の写真と多少の情報やいくつかのリンクを載せただけのシンプルなページで、HTMLで作成するか、ホームページビルダーなどを使って作ったページで、自分のドメインへのリンクなどがあるものです。多様なプラットフォームとチャンネルがある現在では、間の抜けたほど時代遅れに見えますが、ブレアの質問に答えるために調べ始めてみると、ある疑問が沸いてきました。ひょっとして、素朴な学術ホームページは復活しているのかも?
自分で編集するホームページというものには懐かしさを覚えます。1970年生まれの私は、インターネット以前、もっと言えばコンピューター以前の世界を知っています。インターネットの最初の記憶は、友人がテキストベースのブラウザ 「Lynx」 を見せてくれた1993年のことで、1994年に大学のインターネットサービスに接続するためにダイヤルアップモデムを使っていました。電話の着信ができない同居人には非常に迷惑がられました。信じられないかもしれませんが、私には今でも自作のホームページがあります。気づいたら最後に更新してから10年以上経っていたのですが。HTMLコードを自分の手で編集して作った面白味のないページです。検索にヒットしないのはおそらく現在の私が多くのサイトを持っているからでしょう。(2012年以降、RMIT=ロイヤルメルボルン工科大学では仕事をしていないので、更新すべきですね)。
ウェブサイトの美的規範は、この20-30年で大きく変わりました。私が最初に見たページは、黒い背景に緑の文字だけのものでした。その後ブラウザの「モザイク」と「ネットスケープ」によって、画像や動きのあるページも出てきました。作成者のほとんどは、デザインを学んでいた訳ではなく、本当にひどい見た目のページも散見したものです。研究者はインターネット上での自己紹介のトレンドを、真っ先に取り入れようとします。1990年代後半に自分のページを自作していた研究者たちを覚えていますが、ほとんどが数学やコンピューターサイエンス、物理学の研究者でした。Dreamweaverなど必要としない、理系の科学者です。彼らのページには、HTMLをシンプルに使うという明確な美意識が見て取れました。
理系以外の研究者は、90年代にはページの作成にはさほど熱心ではありませんでしたが、00年代初頭には建築学の研究者たちでさえ、自分の研究を宣伝するためにカスタムメイドのページを作り始めていました。当時、大学のウェブサイトにはコンテンツ管理システムがなく、詳細情報を表示するのは難しかったからです。しかし、いわゆる 「ウェブ2.0 革命」が起きると、ウェブページの自作自体が衰退していきました。LiveJournalやブログのプラットフォームが登場し、その後FacebookやLinkedInも出てきました。今ではAcademia.eduやResearchGateなど、自分や自分の研究について情報共有するための選択肢は数多く存在します。いずれも研究者たちに利用してもらうことで、自分たちのプラットフォームの価値を向上させようとするスタートアップです。
「無料サービスでは顧客が商品」とは誰かが言った言葉ですが、こうしたプラットフォームの多くで問題となるのは、プラットフォームに載せたデータの所有権が本人にはないことです。また、サイトに入力したデータの用途や、表示される広告についても研究者側がコントロールできません。 (また更年期障害の治療についての広告が表示されると思うとげんなりです) 大規模なプラットフォームの利便性や、それが開いてくれる人脈は素晴らしいのですが、平均的な研究者にとって、自分の研究を紹介・宣伝するという意味では、素朴なページにも多くのメリットがあると思います。Twitterで尋ねたところ、独立した学術ページの例が多数送られてきました。そうしたページは、現在では形式や規模も非常に多様です。
たとえば、ANUのCrowford SchoolのDavid Sternのホームページは気持ちよいほどにシンプルです。そして、自分が何者で、何を行っているかを効果的に伝えるためには、デザイン的に派手なことを行う必要がないということを如実に示しています。Seamus Albionのページも同様に90年代風のスタイルで、「真面目な研究者」の印象がにじみ出ています。Michael Bulmer のページからはシンプルな美意識が感じられますが、文章や画像の配置により彼の個性が伝わってきます。ANUでデザイン学の研究を行うBen Swiftのページは、私が見た中ではもっと洗練された 「自作」ページです。トップの写真は彼自身の背中の写真で、これは実によくできています。研究者のほとんどは、こんな大それたデザインは選ばないでしょうが、デザインの研究者と言われれば納得です。Alexandra Hoganのページはきちんと整理されていて親しみやすく、羨ましいくらいです。同じ理由でLaura Portwoodのページも大好きですが、2つのページでは、研究者の肖像写真がデザイン上いかに重要であるか、また写真のスタイルで、その人物像についての印象がどれだけ変わるかについて考えさせられます。
自分で所有・管理するページを持つ人々に、そのページの価値は何かと質問してみました。ほとんどの人は、素朴なホームページなら自分でコントロールしやすく、学術上の立場や経歴を自らパッケージ化できるところが気に入っていると答えてくれました。Andrew Glassnerは次のように述べています。「自分の仕事や興味を人々に知ってもらえますし、プロジェクトを整理して一ヵ所にまとめられます。履歴書や、執筆記事、書籍の要約、アートワークなどを網羅する単一のリソースでもあります」就職活動を行う際に、自分について知ってもらえる場を持っているのは悪いことではありません。しかし、そうしたページを作り、ある時ページビューの急増に気づいたCadace Lapanでも、志望先の人には見てもらえなかったといいます。素朴なホームページの主な利点は、コメント欄への対処の必要がないことでしょう。
自分のページを持ち続けていることに職場で眉をひそめられた経験を、Twitterで教えてくれた研究者たちもいました。想像に難くないでしょうがすべて女性です。ある人は「大学が提供するページとは別のページを欲しがる理由を何度もきかれたが、自分は独立した学術的プレゼンスをオンラインで構築することが重要だと信じている」と述べています。彼女によれば、科学系の研究室の責任者の場合、外部の独立ページを持っていることが多いといいます。立場上必要なことを行っているだけなのに、眉をひそめる同僚の目には、彼女は成り上がりに映るのかもしれません。家父長制的なものがもたらすひどい状況です。女性の行動への取り締まりは、他の世界と同様、学問の世界でも蔓延しているのです。
ブレアの質問に戻りましょう。ホームページを作るなら何を含めるべきでしょうか。まずは、自分の写真と一人称で書いた略歴です。これだけで十分で、残りの部分で大学の研究ページ、LinkedIn、ブログなどにユーザーを誘導します。熱心な方なら、自分の研究やプロジェクトを紹介するためのページへのリンクを複数設定することもできますが、常に最新の状態に保つには定期的なメンテナンスが必要になります。連絡先の情報は忘れずに記載しましょう。画像全般についてそうですが、特に自分の写真を入れる場合は、使用する写真は慎重に選ぶべきです。プロの写真家に依頼する必要はないでしょう。自分の性格、人生や仕事に対する姿勢を表す写真はスマホにも入っているかもしれません。スマホの写真エディタを少し使えば見栄えも良くなります。(私はiPhoneでSnapSeedを使っています。)。自信がない場合は白黒にしましょう。これはデザインを学んでいた際の裏技ですが、努力して撮られた肖像のように見えます。
自分と同じ専門分野の人がやっていることも参考にしましょう。でも萎縮せず、大胆に自分を表現してください。自分の手で職人的なホームページを簡単に作るためのツールもあります。Squarespaceは、非常にプロっぽい外観のサイトの作成とホスティングの有料サービスです。友人のNarelle Lemonが、これを使ってExplore and Create Coというプロジェクトのサイトを作っていますが、とても素敵です。料金について聞くと、(実際安くはないのですが)素敵な新しいジーンズと同じぐらいの金額で、少なくとも同じぐらいに有用だと答えてくれました。姉のアニトラ・ノッティンガムはSquarespaceに似たWixでページを作っています。もっと安いサービスとしてCarrdも薦められましたが、これも素晴らしい選択肢のようです。また、私のお気に入りはWordPressですが、こうした無料サービスもあります。
今すぐにでも、自分の古いホームページを修正したいと思っています。皆さんが、自分のページを作った経験もぜひお聞かせください。コメント欄にお寄せいただければと思います。