普段よく使用する単語に「data」という名詞があります。「data」はもともと「datum」という語の複数形なので、厳密には文中で「data」が主語となる場合は、その動詞も複数形にならなければなりません。
[誤] This data is useful for generating enhanced images.
[正] These data are useful for generating enhanced images.
ただし、「datum」という語がまれにしか使われないせいもありますが、最近「data」が「datum」の複数形だという認識が薄くなってきたように思われます。
その結果、たとえば「one datum」、「ten data」、「many data」、「fewer data」などのようなもともと正しい表現がやや不自然に聞こえてしまい、かわりに「one data point」、「one piece of data」、「ten data points」、「ten pieces of data」、「much data」、「less data」などの表現が一般的になり、「data」が「information」という単語と同様に、不可算名詞と見なされる傾向が強まっているのです。通常不可算名詞には単数形しかないため、「data」が単数形で用いられることが増え、学術論文でも最近しばしば見られるわけです 。(この傾向に関しては分野による違いが見られます。特に自然科学の分野では「data」の単数形としての用法はまだ「誤り」と見なされがちです。)
しかしながら、「data」が単数形で用いられることは多くなってはきたものの、学術論文において「data」はいまだ複数形として用いることがより正しいと考えられているため、複数形として使用することが推奨されます。このようなことから、「data」という語は複数形でありながら不可算名詞として用いられるという、文法上大変珍しい名詞と言えるのです。
以下に「data」の用法をさらに例示します。
[誤] We have acquired a large number of data using the technique described above.
[正] We have acquired a large amount of data using the technique described above.
[正] We have acquired a large quantity of data using the technique described above.
[誤] Several data have been eliminated from consideration.
[正] Several data points have been eliminated from consideration.
グレン・パケット
1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。